真山仁小説「ハゲタカ」を読んで学んだこと

バブル崩壊後の日本の不良債権や弱った会社を買い漁る外資の金融機関、通称「ハゲタカ」を書いた経済小説です。この小説を読むことで、バブル崩壊は、日本人の放漫経営がまいた種なのに自分たちは被害者ヅラで、ハゲタカを悪者扱いにしてきたことが分かります。実際には、良い会社にハゲタカが入り込む余地なんてありません。過去の日本の出来事を習うことができるので、大学生や若手社会人にもとても勉強になる小説です。いろいろな会社が出てきますので、自分でwikiなどで調べてみるととても理解が深まるかと思います。なお「ハゲタカ」は上下2巻出ています。今回は、2巻分をまとめたものです。

ファンドはレバレッジを効かす

ファンドの資金が100億円で10%の利回りを出さないといけない場合、100億円をそのまま運用して10億円の利益を出すのは非常に難しいですが、低金利のところから借りて1000億で運用できれば1%の利回りで目的を達成できることになります。なるほど!と思いました。もちろん逆のパターン(損をする)もあるわけですし、借りている利息も考えるとそう単純な話ではないのでしょうが、発想として借りるのが普通なんですね。

不良債権をなぜ激安で売却するのか

ハゲタカたちが暗躍し、不良債権をすごい安い価格で買い漁っていました。不良債権といえど、担保があったりするのでまったく価値が0ではありません。しかし、ほぼタダ同然の価格で売られていました。なぜそんなことがまかり通るのか不思議でしたが、小説を読んでよく分かりました。確かに、不良債権と化したものはすぐに回収の見込みがないため、少しでもいいのでお金が戻ってくるならそれでよしとしました。何よりも重要だったのは、貸借対照表から負の資産をごっそり減らせることでした。実際のお金よりも、見かけ上の変化を当時は求められていたということですね。特に金融庁から。当時は、バランスシートのスリム化や筋肉質な経営などの言葉が流行っていた気がします。

創業家が幅をきかす会社ほど買い取られやすい

株式を市場に公開している会社ほど買い取られやすいと思っていましたが、逆でした。創業家が株の大半を握っている場合は、うまくいっている間は安定していますが、経営が悪くなってきたり、会社を私物化しているような場合は、金さえ積めば創業家から株式を買い取ることが出来ます。創業家はあくまでも名誉職で、株式は分散させているほうが、その企業にとっては安全だと分かりました。

マスコミも使いよう

会社の重要な方向性を決めるときに、社内の勢力争いでなかなか決まらないときは、どちらかの勢力がマスコミに自分たちの方向性をマスコミに流し、さも決定事項かのように報道してもらうことにより、流れを作ってしまおうという策略があるということです。決め手に欠く場合や不利な立場の勢力が使うこともあるそうで、それだけ社内が混沌としている証拠です。マスコミもとくダネは欲しいので利害の一致で報道されてしまうのでしょう。経済ニュースもたまにおかしいのがあるので、こういうことも含まれているんだろうなと改めて思いました。

日本に経営のプロは少ない

自分が創業者、または1つの企業の中でだけ成果をあげている人はたくさんいます。しかし、企業を変えても結果を出す経営のプロは少ないように思います。最近は、やっとその傾向が出てきて、例えば新浪氏はローソンからサントリーへ就任しました。まだ結果を判定するには早いですが、そのような経営のプロが増えてきたら日本の会社もおもしろくなり、より活発になるような気がします。孫正義氏や柳井氏もバケモノ級の経営者だと思いますが、彼らが他の会社でも活躍するところを見たいですね。ジャパネットたかたの高田氏も退社後、長崎のサッカーチームの社長となりました。自分の経験を地元に還元するよい試みだと思います。結果を出してきた数少ない成功者の有効活用が日本経済をもうワンランク上げるきっかけになるのではないでしょうか。リストラ屋は、カットするだけですが、そこから再生・軌道に乗せることが一番大切です。

人事異動の必要性

大手企業・上場企業の総合職は全国勤務です。しかも海外転勤もありうる。海外に行きたい人ならまだしも、そうでない方も会社命令で転勤となります。私の以前いた会社でも、一戸建てを買った翌年に遠方に飛ばされた人がいました。なんの意味があるのか。ひとつは、支社の管理職を務めることで仕事の幅を広げること。もう一つは、会社への忠誠心を確認すること。忠誠心を確認しても、業績が悪くなればいとも簡単にリストラするのにね。会社にしがみつく働き方は、時代に則さないように感じます。若手の頃なら転勤の有効性を認めますが、ある程度年を重ね、私生活に安定を求めるようになると厳しいです。転勤族の子供は悲惨です。友達という生涯の財産を得られないのですから。私生活をもっと重視して、安定した環境で仕事ができるような空気にしないといけないと思います。中年の転勤反対!

ビジネスの肝は人

どんな仕事であっても、ビジネスは人と人とで成り立ちます。ロボット相手にやっているわけではありません。内部の人間・外部の人間とで成り立っているのです。そのため、内部では社内の手続が重要です。立場ある人のメンツをたて、敵を作らないようにしながら進めていかなければなりません。人間は嫉妬の動物です。どこで横槍が入るか分かりません。また相手方も同様です。スパッと切ったビジネスはそのときはいいかもしれませんが、次に繋がりません。人間は感情の動物でもあります。行動経済学という言葉があるように、必ずしも人間は合理的な行動を取るわけではありません。感情が入り込むことで不測の事態が起きます。何事においても気配りが大切ということです。

客の立場に立ったサービス

よく言われるフレーズです。そして商売の根本だと思いますが、これがとても難しい。慣れてくると会社の立場で商売をしがちだからです。お客の立場に立つとは、お客さんの要望をすべて最優先することではありません。出来ないこと出来ないでよいのですが、お客さんから見てどう見えているか、感じているかの視点を失わないようにしないといけません。サービスの第一歩は「笑顔」です。これがどれだけの人が出来ているか。無表情のコンビニ店員や病院受付がどれだけいるのか。「笑顔」ですらこんなに難しいのです。昔、マクドナルドがスマイル0円をやっていましたが、従業員に笑顔を浸透させるための取り組みだったのでしょう。自分の病院で全然出来ていないことを実感しつつ、やはり客商売をする以上はそこを目指さないといけないと感じました。

立地か広さか

業種によって判断が異なると思います。この作品ではスーパーで、郊外型を選択しました。では病院の場合ではどうでしょうか。診療所では、立地を最優先で間違いないと思います。しかし、病院の規模によりますが、商圏が広いのであれば郊外に、同額の広い病院にしたほうがよいでしょう。病院運営は施設基準でガチガチです。スペースがないと出来ないことが多いのです。スペースがあれば工夫のしようがいくらでもありますので、駅前の狭い病院よりも郊外の広い病院にしたほうが将来の展望は明るいと思います。

日光東照宮は魔除け

ドイツの建築家ブルーノ・タウトが「建築の堕落だ、しかもその極致である」と評価した日光東照宮の陽明門。私は、東京に4年住んでおりながら、結局日光に行くことはありませんでした。今は関西住みなので、さらに縁遠い地となりました。京都の都と同じように、江戸を開いた家康は、都の鎮守となるように日光東照宮を設立しました。そして祀られる神は、自分自身家康でした。陽明門は、美を追求した建築物ではなく、魔除けのものだそうです。東洋で考えられる様々な神獣を集めています。その徹底ぶりは、狂信的にもみえ、彼は”何か”を猛烈に恐れていたのでしょう。また、「完成の瞬間から崩壊が始まる」という東洋思想からあえて、未完成のものをさりげなく埋め込まれているそうです。きっと何も知らずに行っていたら、ケバケバしい建物だなーくらいにしか思わなかったと思うので、こういう知識があるとより楽しめますね。


シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする